
「抹茶の茶碗って、どんな種類があるの?」
茶の湯で使われる「茶碗」は、なんだか特別で、扱いが難しそうなイメージを持つかもしれません。しかし、茶碗は、いつものお茶のひとときをより豊かに、そして楽しくしてくれる身近な存在です。
この記事では、茶碗の主な種類や選び方、そして長く大切に使うためのお手入れ方法まで、初めての方にも分かりやすくご紹介します。茶碗の奥深い世界を少しのぞいて、あなただけのお気に入りを見つけるヒントにしてください。
茶席を彩る抹茶碗の世界:種類と機能美
茶の湯で使われる茶碗には、季節やお点前、そしておもてなしの心に合わせて、実にさまざまな種類があります。ここでは、代表的な茶碗の種類とその魅力をご紹介します。
楽焼(らくやき)|手に馴染む温もりと機能美
楽焼は、16世紀後半に千利休の指導のもと、京都で生み出されました。轆轤(ろくろ)を使わず、手と箆(へら)だけで形作る「手捏ね(てづくね)」が特徴で、一つひとつに温かみのある柔らかなフォルムが魅力です。
楽焼の魅力は、茶筅が回しやすいように底が広く作られた「茶筌摺り(ちゃせんずり)」を始めとする、茶を点てるための細やかな機能美にあります。また、熱伝導率が低いため、熱い抹茶を入れても手に持ちやすいという実用性も兼ね備えており、特に濃茶を点てるのに適しています。黒楽や赤楽など、色味によって異なる雰囲気を楽しむことができます。
井戸茶碗(いどぢゃわん)|素朴さに宿る「わび」の美学
井戸茶碗は、朝鮮半島で作られたものが、日本で茶の湯の道具として価値を再発見されたユニークな歴史を持ちます。やや大きめで胴がふっくらとした「すり鉢型」の形が特徴で、口が広く、抹茶を泡立てやすい形状をしています。
その素朴で飾り気のない佇まいの中に、茶の湯が重んじる「わび」の美学が深く反映されています。器に生じたひび割れさえも「雨漏り」と呼び愛でるという、日本独自の価値観がこの茶碗の評価を確立しました。茶道界では、「一井戸、二楽、三唐津」と称され、茶碗の最高位に位置づけられてきた歴史があります。その形のバランスの良さから、初心者でも扱いやすいとされています。
筒茶碗(つつぢゃわん)|冬の茶会に温もりを添える椀
筒茶碗は、その名の通り円筒形で胴が直線的な、深型の茶碗です。この形状は、抹茶の熱が逃げにくいように工夫されており、特に寒い冬の季節(1月から2月頃)に用いられます。手に伝わる温かさを感じながら、湯気と抹茶の香りをしみじみと味わうのは、筒茶碗ならではの冬の楽しみです。浅型の「半筒」は通年で使われます。
平茶碗(ひらぢゃわん/夏茶碗)|夏に涼を呼ぶ開放的な形
平茶碗は、浅く口が広いデザインが特徴で、「夏茶碗」とも呼ばれます。口が大きく開いているため、お抹茶が冷めやすく、暑い夏場に涼しげな一服を楽しむために用いられます。見た目にも涼やかで、泡立ちも良好なため、夏のお点前には欠かせません。ガラス製や青磁風の茶碗も、夏の茶会でよく使われます。
天目茶碗(てんもくぢゃわん)|漆黒の美と窯変の輝き
天目茶碗は、中国・宋時代の寺院で使われていた黒釉(こくゆう)の茶碗が起源です。漏斗状のすり鉢デザインで、濃い鉄釉仕上げが特徴です。
その中でも特に珍重されるのが「曜変天目(ようへんてんもく)」です。漆黒の器の内側に、まるで夜空に星が散らばるように大小の斑紋が浮かび上がり、その周囲は青色や青紫色に輝きます。見る角度によって光彩が変化するため、「器の中に宇宙が見える」と評されます。世界に現存する真作の曜変天目茶碗はわずか3碗のみであり、いずれも国宝に指定されています。
その他の茶碗の種類:日本各地の伝統と多様性
茶の湯で使われる茶碗は、他にも日本各地の伝統工芸品が数多く存在します。例えば、土の風合いが生きた力強さが魅力の信楽焼、使うほどに貫入(ひび模様)が入り「器が育つ」と表現される萩焼、素朴で温かみがあり日常使いにも向く唐津焼、白い釉薬が印象的な志野焼、そして緑釉と大胆なデザインが特徴的な織部焼などがあります。
これらの茶碗は、中国由来の「唐物」、朝鮮半島由来の「高麗物」、そして日本独自の「和物」といった分類もされ、それぞれの産地や歴史的背景によって、釉薬や肌触り、形に個性があります。
初心者が選ぶなら?気軽に始める茶碗の選び方

最初の一碗を選ぶのは、少し迷うかもしれません。でも、難しく考える必要はありません。大切なのは、「好き」という気持ちと「使いやすさ」です。
手に持ってしっくりくるサイズと重さ
茶碗は、お茶を点て、飲むための道具です。実際に手に取ってその感触を確かめることが最も重要です。片手で楽に持てる、安定感のあるサイズと重さを選びましょう。茶筅を回しやすいサイズか、口当たりや手触りが心地よいかどうかも大切なポイントです。
抹茶の緑が映える色と土の表情
茶碗の色や釉薬は、点てた抹茶の鮮やかな緑色を美しく引き立てるかどうかも考慮すると良いでしょう。濃いめの色や、白っぽい器は抹茶の美しさが際立ちます。
また、茶碗の大きな魅力の一つは、その土の表情や釉薬の「景色」です。楽焼や萩焼のような土の風合い、信楽焼の荒々しさなど、産地ごとに異なる土の個性を楽しむ視点を持つと、茶碗への愛着が深まります。釉薬の表面に入る細かいひび割れ「貫入」や、窯の中で自然に生まれる「自然釉」など、偶然によって生まれる美しい模様も、茶碗の大きな楽しみ方の一つです。
季節感を意識した茶碗の形
茶の湯では、季節の移ろいを五感で楽しむために、茶碗も季節に合わせて使い分けます。
- 夏(浅型): お抹茶が冷めやすい「平茶碗」は、暑い夏に涼しげな一服を楽しむのにぴったりです。
- 冬(深型): 細長い筒状で熱を保ちやすい「筒茶碗」は、寒い季節に温かい抹茶をゆっくりと味わうのに適しています。
最初は一碗で十分ですが、少しずつ季節ごとの茶碗を集めていくのも、茶の湯の楽しみの一つとなるでしょう。
茶碗のお手入れ:長く愛用するためのひと手間

「お手入れが大変そう…」という不安もあるかもしれませんが、慣れれば日常の延長線上です。茶碗を長く美しく保つための基本的なお手入れ方法をご紹介します。
使う前の準備:湯通しとヒビのチェック
茶碗を使う前には、ぬるめのお湯をかける「湯通し」がおすすめです。これにより、急な温度変化から茶碗を守り、特に陶器製の茶碗の場合は、抹茶の色や匂いがつきにくくなる効果も期待できます。湯をかけながら、目立たないヒビや欠けがないか、さりげなく確認しておくと安心です。
使用後の洗い方:ぬるま湯でやさしく
使用後は、できるだけ早くぬるま湯でやさしくすすぐのが基本です。熱いお湯は避け、底や縁に付いた抹茶を指先で軽くなでるようにして流します。スポンジやたわしは茶碗を傷つける恐れがあるため、使用は避けましょう。
陶器製の茶碗は吸水性が高いため、洗剤を使うと内部まで入り込んでしまい、匂いやカビの原因となることがあります。そのため、基本的には洗剤は不要です。どうしても油汚れなどが気になる場合は、中性洗剤を薄く溶かした水で軽く洗い、すぐにたっぷりの水でしっかりとすすいでください。
乾燥と保存:自然乾燥と適切な収納
洗い終わったら、布巾で水気をやさしく拭き取り、伏せずに風通しの良い場所で自然乾燥させることが大切です。特に陶器は水分が残りやすいため、最低でも数日間はしっかりと乾かしましょう。湿ったまま収納すると、カビや臭いの原因になります。
完全に乾いたら、桐箱や通気性のある棚に保管しましょう。箱にしまう際は、茶碗同士がぶつからないよう、衝撃や湿気から守ると、より長く大切に使うことができます。
おわりに
茶碗を手に取ったときの温度や重さ、口当たり、そして見た目の景色……そのすべてが、抹茶を味わう時間を、深く充実させてくれます。
「茶碗って奥深そうだけど難しい…」と思っていたあなたも、「まずはひとつ、自分の好きな茶碗を選んでみる」――それが、茶の湯の入口になるかもしれません。気負わず、気軽に。あなたの“最初の一碗”が、心地よく味わい深い時間を連れてきてくれることを願っています。