chanoyu.media

Japanese tea ceremony in Tokyo

茶の湯、茶道は「おいしいお茶を点てて、心を込めていただく」シンプルなものです。その奥深い世界への扉を開くのが「道具」たちです。道具一つ一つに、おもてなしの心や美意識が込められています。

道具の手入れや扱い方を通じて、物を大切にする心や美しい所作が身につきます。この記事では、お茶を点てる道具について基本的な知識をご紹介します。まずは道具に親しみ、その役割を知ることで、茶の湯の楽しみはぐっと広がります。

お点前を始めるための基本の道具たち

まず手元に揃えたい、お点前の中心となる道具をご紹介します。

1. 茶碗(ちゃわん)

抹茶をいただく茶碗は、お点前で最も親しまれ、お客様が直接手に取る大切な道具です。様々な産地の焼き物があり、季節によって口が広く浅い「平茶碗」(夏)や深さのある「筒茶碗」(冬)を使い分けます。また、濃茶には文様のない茶碗、薄茶には文様のある茶碗が使われることが多いです。

亭主が茶碗の「正面」を客に向けて出すのは敬意の表れで、客が茶を飲む際に正面を避けて茶碗を回すのは謙虚さを示す作法です。

お手入れは、使用後はぬるま湯で優しく洗い、硬いスポンジは避けましょう。使い込むことで生じるひびや茶渋の跡も、「わび・さび」文化では道具が「育つ」と表現します。カビを防ぐため、洗った後は数日間しっかり乾かすことが大切です。

2. 茶筅(ちゃせん)

茶筅は、抹茶と湯を混ぜ合わせ、きめ細やかな泡を立てるための竹製の道具です。

薄茶には穂数が多い「八十本立」や「百本立」がおすすめです。濃茶には穂数の少ない「荒穂」が適しています。約70本の「数穂」もあります。ご自宅で楽しむなら薄茶用の百本立があると便利です。

茶筅は穂先が繊細で折れやすいため、使用後は洗剤を使わずぬるま湯ですすぎ、専用の「くせ直し」に挿して形を整え、日陰で乾燥させます。消耗品のため定期的な交換が必要です。

3. 茶杓(ちゃしゃく)

茶杓は、抹茶をすくい茶碗に入れる竹製の匙です。約18cmの細長い姿で、抹茶の量を調整する役割があります。薄茶は茶杓一杯弱(約1.5グラム)が目安です。

茶杓には、作者である茶人自身が削り、詩的な「銘」をつけることがあります。水洗いは避け、乾いた布で優しく拭き取り、風通しの良い場所で保管しましょう。

4. 棗(なつめ)

棗は、薄茶用の抹茶を入れる器で、ナツメの実に形が似ていることから名付けられました。漆塗りのものが一般的で、美しい装飾が施されます。

大きさは中棗(約6.5cm)が一般的で、千利休が好んだ「利休形」が広く知られています。輪島塗、津軽塗など各産地の漆器技術が活かされています。抹茶を詰める際は、ふるってから茶杓で少しずつ棗に移し入れます。濃茶には、棗ではなく「茶入」という格式高い道具が使われます。

5. 茶巾(ちゃきん)

茶巾は、お点前の際に茶碗についた水滴を拭き清める麻製の白い布です。茶道では、茶巾で茶碗をただ「拭く」のではなく「清める」という精神的な意味合いが込められています。茶巾の白さはその清らかさを象徴しています。

ハリがあり、水滴を吸いやすい麻の晒生地が最適です。布の二辺の端が糸でかがられており、向きに注意が必要です。使用後は軽く汚れを落とし、湿気の少ない場所で保管します。

茶席を彩り、お点前を支える道具たち

お点前の中心となる道具の他にも、茶席の雰囲気を作り出し、茶事を円滑に進めるために欠かせない様々な道具があります。

1. 釜(かま)と風炉(ふろ)/炉(ろ)

釜は、お茶を点てるお湯を沸かす道具で、茶事・茶会の中心です。炉(畳の囲炉裏)は主に11月から4月の寒い時期に、風炉は5月から10月の暖かい時期に使われます。炉と風炉の使い分けは、茶道が「季節との調和」を重んじる文化であることを象徴しています。

湯を注ぐ際には柄杓(ひしゃく)を用います。

2. 水指(みずさし)

水指は、釜の湯温調整や、茶碗・茶筅のすすぎに使う水を保持する器です。茶室における「清浄」の象徴であり、美術的な要素も備えています。水指が単なる水入れ以上の意味を持つのは、茶道において「水」が清らかさの象徴であるためです。焼き物が多いですが、漆器や金属製もあり、工芸的な価値も高いです。

3. 柄杓(ひしゃく)

柄杓は、釜や水指から湯水を汲む竹製の道具です。湯水を操る一連の所作には、集中と精神統一の心が込められています。柄杓の扱い方は茶席で目立ち、その動きの美しさが茶事の雰囲気を左右します。湯を汲んだ後に柄杓を釜に置く作法(置き柄杓など)は、日本の伝統的な心に通じる意味合いを持ちます。

4. 蓋置(ふたおき)

蓋置は、釜の蓋や柄杓を置くための小さな台です。かつては「隠架」とも呼ばれました。

蓋置は、建水の中に仕込まれて茶席に持ち込まれ、お点前の開始時に所定の位置に置かれ、終了時には棚などに飾られます。蓋置には様々な種類がありますが、特に代表的なものとして「七種の蓋置」が知られています。素材も唐銅、陶器、竹など多様で、季節や茶会の趣向に合わせて選ばれます。

5. 建水(けんすい)

建水は「みずこぼし」とも呼ばれ、茶碗を温めたりすすいだりした湯水を捨てるための器で、客からは見えにくい場所で使われます。種類は、磁器、陶器、唐銅など多様です。

6. 帛紗(ふくさ)

帛紗(ふくさ)は、お点前で茶杓や茶器といった道具を清める際に使用する絹の布です。熱い釜の蓋を扱う際にも用いられます。道具を「清める」という行為には、道具への敬意と精神性が込められています。帛紗の色は、流派や性別によって決まりがあります(例:表千家は男性が紫、女性が朱色)。

7. 扇子(せんす)

茶道で用いる扇子は、暑い時に仰ぐためのものではありません。ご挨拶の時や席入りの際に膝前に置いて使用する、大切な道具です。扇子を膝前に置くことで、相手への敬意を表し、同時に扇子が「結界」として、自分と相手の間に区切りを作り、特別な空間を意識させる役割を果たします。

扇子の長さは、流派や男女で異なります。また扇子を使用しない流派もあります。

8. 懐紙(かいし)と菓子切り(かしきり)

懐紙は、お菓子をのせるお皿の役目を果たし、茶碗の縁を拭いたりする時にも用いられる、茶道に欠かせない道具です。菓子切りは、出されたお菓子を切って口に運ぶための道具です。懐紙は二つ折りにした輪の方を自分の膝前にして使います。菓子切りで切ったお菓子を懐紙に乗せていただきます。

9. 香合(こうごう)

香合は、炭手前(すみでまえ)の際に使う香を入れておく容器です。多くの茶会では炭手前が省略されることもありますが、その場合でも床の間に飾られ、亭主の趣向が反映された鑑賞の対象となります。

季節の趣向が反映され、炉の時期(冬)には陶製の香合に練香を入れ 、風炉の時期(夏)には漆器製の香合を使用し、角割の香木を用います。金属製や貝殻を使用した香合は、季節を問わず使用できます。

10. 花入(はないれ)

花入は、茶席に季節の草花を飾るための器です。茶道では、華道のように豪華に生けるのではなく、野にあるがままの自然な美しさを大切にします。

花入の素材は大きく分けて、銅器類、陶器類、木工類(竹、籠、瓢など)の3つがあります。竹花入は千利休が広めた花入の一つで、上部に花を挿す穴が一つ開いた「一重切」が基本です。籠花入は竹や藤の蔓などで作られ、主に暖かい時期に使用されます。

まとめ:道具と共に深まる茶の湯の道

茶道の道具たちは、単なる「モノ」ではありません。それぞれが長い歴史と、それを使う人々の想いを宿しています。茶碗の季節感、茶筅の機能性、茶杓の繊細な所作、棗の美しさ、茶巾の清める心—これら一つひとつに、茶道の哲学と「おもてなしの心」が込められています。

完璧な作法を一度に身につけることは難しいかもしれません。しかし、道具一つひとつに込められた意味を知り、丁寧に手入れをすることを通じて、自然と「物を大切にする心」や「美しい所作」が育まれます。本記事が、皆さんが茶道の道具に親しみ、その奥深い世界への一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。