
「お茶会で出されるお菓子って、なんだか特別そう…」
そう思っていませんか? 茶席でいただく和菓子は、ただの甘いおやつではありません。抹茶の味をぐっと引き立て、茶室を和やかにし、亭主(おもてなしをする人)の温かい心遣いを伝える、大切な役割を担っています。
この記事では、茶の湯に初めて触れる方にも分かりやすく、茶席の和菓子の奥深い魅力をたっぷりご紹介します。「干菓子と主菓子って何が違うの?」「季節によってお菓子も変わるの?」といった素朴な疑問も、きっと解消できるはずです。
茶席の和菓子の基本:「干菓子」と「主菓子」
茶席でいただく和菓子は、役割や水分量によって大きく「干菓子(ひがし)」と「主菓子(おもがし)」の2種類に分けられます。
- 干菓子: 水分が少なく日持ちしやすいお菓子で、主に薄茶(普段よく飲むお抹茶)と一緒にいただきます。薄茶の軽やかな苦味を優しく引き立ててくれます。
- 主菓子: 水分が多く、見た目も華やかな生菓子を指します。こちらは、濃く深い味わいの濃茶に合わせるのが基本です。濃茶の濃厚な味わいをしっかりと受け止めるため、濃茶をいただく前にゆっくりと味わいます。
現在は、薄茶に主菓子が出されることも珍しくありません。「濃茶には主菓子が基本だが、薄茶に主菓子もよくある」くらいの気持ちで、気楽に楽しんでください。
五感で楽しむ和菓子の世界
和菓子は、見た目、香り、味、触感、そして菓銘(お菓子の名前)に込められた物語を通じて、五感で季節の移ろいを感じさせてくれる芸術品です。
軽やかさと繊細な美を持つ「干菓子」
干菓子は、水分が少なく、日持ちしやすいのが特徴です。
- 打ち物: 米粉や和三盆糖などを型に入れて作るお菓子です。
- 落雁(らくがん): 鶴亀や桜など、縁起の良い形や季節を表す美しいものが多く、口に入れるとほろりと溶けます 。
- 和三盆(わさんぼん): 口溶けが特に良く、上品ですっきりとした甘さが魅力です 。
- 押し物: 型に入れて押し固めて作るお菓子で、打ち物よりもしっとりしています。
- 村雨(むらさめ)/時雨羹: 餡と粉を混ぜて固めたもので、しっとりとした口当たりです 。
- 塩釜(しおがま): ほんのり塩味が効いていて、甘い干菓子の中で上品なアクセントになります 。
- 掛け物: 砂糖液などをかけて作るお菓子です。
- 金平糖(こんぺいとう): ポルトガルから伝わった、星のような形が可愛らしい砂糖菓子です 。
- 有平糖(ありへいとう): 水飴と砂糖を煮詰めて作る飴菓子で、サクサクとした食感が楽しめます 。
- 半生菓子: 干菓子と生菓子の中間ですが、茶席では干菓子として扱われることもあります 。
- 琥珀糖(こはくとう): 寒天と砂糖で作られ、外はシャリッと、中はゼリーのような食感で、見た目も涼やかです 。
季節を映す芸術品「主菓子(生菓子)」
主菓子は水分が多く、見た目の美しさから「季節を映す芸術品」とも呼ばれます。
- 練り切り: 白餡に求肥(ぎゅうひ)などを混ぜて作る、上質な生菓子です。花鳥風月をモチーフにした美しい細工が施され、見た目も華やかで、口溶けがなめらかです 。
- こなし: 練り切りに似ていますが、白餡に小麦粉などを混ぜて蒸し、揉みこなして作られます。練り切りよりも少しもちっとした食感で、素朴な色合いが特徴です 。
「練り切り」と「こなし」は見た目が似ていますが、製法や食感が少し違います。地域によって呼び方が異なることもありますが、どちらも茶席を彩る美しいお菓子です 。 - 饅頭・薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう): もちもちの生地で季節感を表現する饅頭です。特に山芋を使った薯蕷饅頭は、上品な味わいです 。
- きんとん: 餡をそぼろ状にして丸くまとめたお菓子です。色彩豊かで、四季折々の風景を繊細に表現します 。
- 羊羹(ようかん): 寒天と餡、砂糖を固めたもので、蒸し羊羹や夏の水羊羹など、様々な種類があります 。
- 行事菓子: 花見団子や月見団子、粽(ちまき)、水無月(みなづき)など、季節の行事に合わせたお菓子も主菓子として人気です 。
季節を愛でる:菓銘に込められた物語

茶席には、その季節の気配を映す和菓子が欠かせません。和菓子の菓銘には、古典文学や自然の情景などから取られた深い意味が込められています。
- 春:桜やうぐいすをかたどった練り切り(例:花衣、花吹雪)。
- 夏:涼しさを感じさせる水羊羹、葛饅頭(例:七夕、初蛍)。
- 秋:中秋の名月の月見団子や栗を使ったお菓子(例:紅葉、萩の露)。
- 冬:新年の花びら餅や、雪景色を模した練り切り(例:雪餅、花椿)。
菓銘に思いをはせることで、和菓子が単なる食べ物ではなく、日本の文化や美意識を凝縮したものであることを深く感じられます。
流派の趣向:初釜に見る「決まり菓子」
茶道には多くの流派があり、お茶の点て方だけでなく、和菓子の選び方にも独自の考え方があります。
特に新年の「初釜」は大切な行事で、三千家(表千家、裏千家、武者小路千家)にはそれぞれ代表的な「決まり菓子」があります。これらの菓子には、各流派が大切にする美意識や哲学が象徴されています。
| 流派 | 代表的な初釜の主菓子 | 特徴・意味合い |
| 裏千家 | 花びら餅 | 平安時代の宮中儀式に由来。新年の寿ぎと華やかさを象徴。 |
| 表千家 | 常盤饅頭 | 白い薯蕷饅頭の中に緑餡。雪をかぶった松の姿にたとえられ、静謐な美しさが特徴。 |
| 武者小路千家 | 都の春 | 紅と緑のきんとんで京の春の景色を表現。華やぎを象徴。 |
茶席でのお菓子のいただき方

茶席でお菓子をいただく際には、基本的なマナーがあります。
- お菓子の取り方: お菓子は、指か、添えてあるお箸などを使って自分の「懐紙(かいし)」に取っていただきます。
- いただくタイミング: お菓子は抹茶が出される前にすべていただくのが茶道の作法です。抹茶と交互に食べたり飲んだりしないよう注意しましょう。
- お菓子の食べ方: 黒文字で一口大に切り分けて食べますが、細かくしすぎず、形が崩れないよう丁寧に切るのが大切です。黒文字は親指、人差し指、中指の3本で持つのが美しい作法です。
黒文字の持ち帰りについては、茶会の種類によって対応が変わることもあるため、臨機応変に対応できるとスマートです。大切なのは、ルールではなく「相手を思いやる気持ち」です。
さいごに:季節を味わう、和菓子の愉しみ
和菓子は茶席の楽しみの一つであり、お茶の味を深め、茶席の空間を和ませ、亭主の深い心遣いを伝える大切な役割を担っています。
一つひとつのお菓子が持つ文化や季節感を、ぜひ五感で楽しんでみてください。和菓子を通じて、あなたの茶の湯の時間が、季節とともに彩り豊かなものになることを願っています。